2013.10.31|木工
仁城義勝さんの器
先日、岡山の仁城義勝さんから作品が到着しました。仁城さんは毎年1月〜2月に板から木型を取り、3月は粗挽き、4〜6月の乾燥した時期に木地を仕上げ、湿度の高い7〜9月に漆を塗り、1年近くかけて作品をつくりあげます。毎年決まったサイクルのもとに製作されるので、作品は一年に1度、前の年に注文した分だけいただけます。木地師と塗師が分業して作ることがことの多い漆の世界で、仁城さんのように木を挽くところから漆を塗るところまで一人で仕上げる方はとても珍しく、木目が透けて見えるの漆の風合いも特徴です。「一般的な溜め塗りの漆は、その上に装飾を施すためのもので、僕の漆は木を守るだけ最小限だから、漆が主役ではなく“木の器”なのだとおっしゃいます。それでも鈍く光る漆の光沢は美しく、ひとつずつ取り出すたびに艶やかな色合いに思わずため息がこぼれました。1年前、入れ子椀(2万3500円)をご注文いただいたお客様にも無事にお渡しできてほっとひと安心。この入れ子椀は托鉢のお坊さんの食器から発想を得たもので、一汁三菜の器として碗や皿、蓋となり、しかもひとつの器のなかに美しくしまえるといううスグレモノ。必要最小限に削ぎ落とされた道具としての魅力を感じます。漆を日常的に使うことに抵抗があると思う方も多いようですが、copseでは仁城さんのプレート(7寸皿6500円)に料理やお菓子を載せて使用しています。漆黒のなかに浮かび上がるように、食材を浮かび上がらせてくれるのが漆の魅力。みそ汁用から、丼用まで(6500円〜1万2000円)椀ものも少しずついただきました。おせちやお弁当用に活躍する丸いお重は2段で2万2000円です。
こうして一年に一度、仁城さんから作品が届くたび、店をはじめる前に新幹線とローカル線を乗り継いて、工房にうかがった日のことを思い出します。のどかな車窓の風景とは裏腹に、店をはじめる期待よりは不安に押しつぶされそうだった気持ちが、艶やかな漆の器とともによみがえります。その時、仁城さんがくださったお手紙は今でも宝物です。