【作家紹介】仁城義勝さん(漆)
岡山県井原市の山腹で漆を手がける仁城さん。漆というとよそゆきの器、ハレの日のものと思いがちですが、仁城さんの漆は日常の道具。木のあたたかさと美しさに満ちています。仁城さんの漆は木を守るだけ最小限に塗り仕上げています。「だからぼくのは漆というより、木の器なんです」と仁城さん。岡山の工房には木仁城さんのものづくりの背景をうかがってきました。長文ですが、ご一読いただけると幸いです。
(以下c)—-仁城さんの器は木を削るところから漆まですべて手がけていらっしゃるのが特徴ですね。しかも丸太から仕入れて‥‥倉庫に膨大に保管されているんですね。
仁城—修行した富山の工房が丸太から仕入れて乾燥させるところからしていたので、僕には当たり前のことだと思っています。ただ丸太で購入しても5〜6年寝かさないと使えません。もちろん乾燥の過程で割れたり反ったりすることもあれば、製材してみると虫食いや腐っているところが見つかることもあったりで、正直歩留まりが悪いです。製材所からすぐ使える材料を買ったほうがよほど効率はいいでしょう。でも、丸太からつくることに意味があるような気がしているんです。製材するたびに木の命をいただいているという気持ちになり、命へのいとおしみが湧いてきます。自分の命は100年にもなりませんが木の命はもっと長い。丸太を前にすると、人間のエゴやおごりに気づかされたり、教えられることがたくさんあります。
c—木を無駄にしないよう、木取りにも配慮されているんですよね。
仁—丸太は薄い素材と厚い材料に製材します。厚い材料で椀や鉢物を、薄い材料はお皿を挽きます。製材するときにできる端材は四角いお重にします。お椀が売れるからとお椀ばかり作ってしまうと端材が取れなくなる。わざと端を残すことで木を無駄なくつかうことができるし、バランス良くいろんな作品をつくることにもつながっています。もともと30年前に生地屋としてスタートして、最後まで自分で作りたいと思って仕上げ(漆)まで手がけるようになりましたが、つねに木をいかに無駄なく使うか、どうすれば大切に使い切れるかを考えています。
c—材料はトチと栗の2種類を使われていますね。
仁—木はどうしても存在感が主張が強いのですが、トチは木目が控え目ななので気に入っています、木目が静かだから漆で仕上げたときも漆と喧嘩せず、お互いが主張しすぎることがない。一方、栗は力強い木目が魅力。トチだけでは物足りないときに栗を少し使う感じですね。使えるものを作りたいという思いがあるので、自分が主張するようなものづくりが苦手で、素材の持っているものを生かして誰にでも馴染む姿にしたいと常に思っています。
c—仁城さんの漆はシンプルですが木目が透けて見えて、それがひとつひとつの個性となっている気がします。
仁—手を加えすぎないようにして、完結する前の一歩引いた状態にして仕上げるようにしています。完結してしまうと料理を入れたときに器が勝ってしまう。逆にぼけてしまうと料理まで殺してしまう。あくまで主役は料理で器はそれを支える存在なんです。「つくることをつくらない」というか「つくるらないことをつくる」のが僕の目標なんです。繰り返しになりますが、主張をできるだけ消したい。僕が僕がという存在をつくりたくないし、そんな人生もまたつまらない。ただ凡々としているだけでいい、精神的なつながりが根っこにあればそれで十分ではないかと思っています。
c—つくられる器は定番の形が基本になって、後から同じものを買い足せるのも魅力です。
仁—自分で考えて形を生み出したというより、要望されたり、木の出会いから少しずつ増えてきましたが、定番のアイテムをつくるだけ。毎年新作を発表するようなこともなく極めて地味なものづくりです。器は使う人のもの。料理を盛り付けて初めて完成するものであってほしい。オブジェやアートとは違う、あくまで生活の道具を目指しています。じゃあ、ただの容器でいいかというと、それは違います。〝器〟という言葉は大器晩成とか、あの人は器が大きいとか、人と同義語として使うことがありますよね。機能だけではなくそこにに精神性が加わってはじめて器になるのではないかと。単なるものとして扱ったら精神性は失われてしまいます。これは使う人の問題ではなく、つくる者の問題。木のように個体として完結しているものを扱う場合はなお、そういう気持ちで向き合わなければならないと思っています。
c—一年の間にサイクルを決めた制作スタイルも特徴ですね。
仁—冬の間に荒取りや木取りをして、その後6月ごろまで木地づくり、夏は漆塗りをして秋は販売と、3ヶ月ごとにそれぞれの作業に集中します。乾燥した時期に成形して、湿気の多い夏場に漆の仕事、そして冬は出稼ぎ(笑)で各地の展示会に立たせてもらう、と季節に合わせて作業を分割していますが、作業に集中できるし、出張のときもできるだけ何箇所もいけるように段取りしています。それぞれのお店に納品するのも年に一度。注文をうければいつでも発送できる問屋のようなことはできませんが、効率よくつくることで価格も抑えて喜ばれる器になるように思います。
c—仁城さんから作品が届くのは例年、秋の終わり。楽しみに到着をお待ちしています。