身体感覚講座〜食べること、生きること
あたたくなる光に、冬の間硬くなっていた身体がようやく溶け始めた気がします。来月の「朝ゴハン展」会期中、日本身体文化研究所の矢田部英正さんの「身体感覚講座〜食べること、生きること」と題したワークショップを行います。矢田部さんは『椅子と日本人のからだ』や『たたずまいの美学』『からだのメソッド』といった、主に日本人の身体技法に関する著書で知られる存在です。ただ、そのご活動を説明するのに、身体や姿勢の研究家とご紹介するだけではあまりに言葉が足りません。つたないご紹介をする前に、現在に至る経歴をご紹介。3代続く音楽家の家に生れながら、学生時代は体操競技の選手として第一線で活躍。選手時代の姿勢訓練から、東洋の伝統的な身体技法に関心を寄せ、その後、文化女子大学大学院で和装の身体性について研究されたそう。文化史家として日本の伝統芸能はもとよりアジアやヨーロッパの文化や芸術にも深い造詣をお持ちです。さらに驚くべきは、姿勢理論に基づいて椅子を開発され、みずから製作されていること。姿勢を良くしてくれるという類の椅子はだいたいがデザイン性に乏しいですが、矢田部さんのつくる椅子はどれも名作椅子に負けない造形美を備えています。なかでも「シェヴァリエ」はいつかは手に入れたいと憧れるワークチェアです。現在、矢田部さんはフランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新が手がけたという古い洋館のアトリエで月に2度「身体文化ゼミナール」を開催され、私も数回うかがわせていただきましたが、そのジャンルを超えた知識と多彩なご経験にもとづいくお話は、著書と同様、心のメモに書き留めておきたいことばかり。しかも実際にワークショップを通じて独自の理論を体感できるところも大きな魅力です。なにより、一貫して「心身を自然と調和させる」という矢田部さんの思いが、心の奥底に静かに響きます。今回は「朝ゴハン展」にちなみ、食べることにまつわるお話、食事の所作のワークショップなど生きることの基本について、はじめての方にもわかりやすくお話とワークショップをいただく予定です。